Couple in hotel lobby

ヨーロッパの宿泊施設セクターのサステナビリティへのアプローチ

 | 保存
Booking.comとStatistaが行った新たな調査から、ヨーロッパの宿泊施設業界におけるサステナビリティと脱炭素への感覚が明らかになりました。現在の準備の状態にかかわらず、ヨーロッパのホテルは、自前でエネルギー需要を満たし、サステナビリティを重視する旅行者を惹きつけることで多くの利益を得ることができます。

弊社は、2023年春にヨーロッパの10地域の1,040軒の宿泊施設を対象に、2023年夏季のヨーロッパの宿泊施設の動向指標*調査を行いました。本記事では、サステナビリティへの取り組みの強化に向けた業界の進捗状況と、課題が残っている分野について明らかになったことをご紹介します。

ヨーロッパ地域でのサステナビリティへの準備状況

よりサステナブルな宿泊施設を目指すという過程において、ここまでの道のりは長いものでした。現在、ヨーロッパのホテル経営者の42%は、サステナビリティと脱炭素の課題に対して十分な準備ができていると感じており、この数字は2022年から3%増加しています。反対に、準備ができていないと感じているホテル経営者はわずか15%であり、2022年の18%から3%減少しています。このような心強い進歩が見られるとはいえ、回答者は皆、さらなる取り組みが必要であることに同意しています。

準備状況について最も自信が高かった国はイタリアで、ホテル経営者の58%が、サステナビリティと脱炭素に関連する課題に対応する準備状況を「良好」または「とても良好」と評価しました。これに近い数字で続いたのが、スペイン(46%)と北欧諸国(45%)でした。イタリアと北欧諸国では、準備ができていないと答えたホテル経営者の割合が非常に少なく、「不十分」または「とても不十分」と評価したのはそれぞれわずか5%と6%でした。調査対象国のうち、ギリシャのホテル経営者は、準備状況への自信が最も低かった一方で、フランスは準備できていないと感じる経営者の割合が他の国と比べて圧倒的に多くなっていました。ドイツは、2022年よ​​りも準備が整っていないと評価した唯一の国となっており、他の国とはきわめて対照的でしたが、他のすべての地域では改善が認められました。

Preparedness for sustainability and decarbonisation

国ごとでなぜこのような差異が生じるのか正確に突き止めることは困難であるものの、ギリシャの場合、他のヨーロッパの事業者と比べてギリシャの事業者は資本へのアクセスが限られていることへの懸念が強いことが、弊社の調査で明らかになりました。宿泊施設セクターにおいて、サステナビリティへの投資のほとんどは回収できるものの、資金調達の選択肢へのアクセスのしやすさと選択肢の有無は依然として大きな課題です。ほんの小さな変化でも積み重ねることによってすぐに違いを生み出すことに繋げられるため、こういった地域では、「サステナビリティを高めようとすると、必ず費用がかさむ」という誤解を解くことが重要となります。

サステナビリティと脱炭素への投資

ホテル経営者の52%は、サステナビリティへの取り組みへの投資を2022年と同程度に維持するつもりと答えた一方で、ごく一部(13%)の経営者は投資を減らすつもりと回答しました。対照的に、32%は今後6ヶ月間でサステナブルな運営に向けてさらに投資することに積極的でした。

以下のバブルチャートは、宿泊施設提供者が脱炭素とサステナビリティを高める取り組みへの投資をどう配分する予定かを示したものです。

Majority of European hoteliers convey plans to invest in energy efficiency


弊社のレポートでは、ヨーロッパの宿泊施設の多くの割合がエネルギーコストを最大の課題と捉えており、これを主要な懸念事項として挙げた人は86%にのぼっています(2022年の80%から増加)。したがって、60%近くの経営者が、サステナブルな投資目標においてエネルギー効率を最も重要視するのは驚くべきことではありません。

投資対象の分野として次に多かったのは、廃棄物の削減と水の保全でした。この分野にリソースを配分するということは、事業者にとって長期的な支出削減が、変化を起こすための強力な動機付け要因であることを意味しています。

サステナビリティを推し進める動機付け要因

弊社の調査において、ホテル経営者は、サステナビリティを推進するうえで最も優先する投資分野としてエネルギー効率を挙げました。ホテル経営者は、ユーティリティコストの高騰に伴う価格変動から自らのビジネスを守ろうとしており、これは、代替エネルギー源に切り替えて効率を向上させる動機となるでしょう。

2023年は収益の記録が過去最高の年になると期待する宿泊施設提供者が46%にのぼることから、新規客やリピーターを惹きつけようという強い動機が芽生えています。弊社の2023年版サステナブルな旅行に関する調査によると、ほとんどの旅行者(76%)が今年はよりサステナブルに旅行をしたいと考えているのに加え、かなりの人数の旅行者(46%)がそのために支出が増えてもかまわないとしています。こういった旅行者層は増えているため、宿泊施設事業者は、このような旅行者層に対応する機会を追求することで、大きな利益を得ることができるでしょう。 

ヨーロッパにおけるサステナビリティ関連のチャンス

弊社のレポートにおいて、2023年の最も大きなチャンスは何かをヨーロッパの宿泊施設提供者に尋ねたところ、回答者の55%が、サステナビリティへの取り組みをより広範なコミュニティに結び付けることを目指す「地元の体験の提供」を重要視していることがわかりました。「よりサステナブルなプロダクトやサービスへの関心の高まり」が僅差(53%)で続き、もうひとつの注目すべきチャンスとして、「Z世代の旅行者の取り込み」(53%)が挙げられました。これらの層は気候変動やカーボンフットプリントの削減に最も関心を持っているため、サステナビリティを高める取り組みを実践することは、若年層のゲストのニーズや好みに対応する素晴らしい方法となります。 

Emerging opportunities ranked by European hoteliers


弊社のレポートから浮かび上がったことは、ヨーロッパの観光業がパンデミック後の軌道回復を維持し続けており、多くの宿泊施設提供者が過去最高の年になると予想していることです。これを踏まえると、政府としては、サステナビリティと脱炭素への取り組みを強化するにあたり、宿泊施設事業者をどのように支援できるかを検討することが有益だと思われます。調査対象の回答者の42%が、財政面および税制面での優遇がサステナビリティを高めるための実行計画を加速させるのに役立つと考えているのに加え、36%は資本や資金へのアクセスの改善を求めています。

ヨーロッパ全体を通して、引き続き前進は見られるものの、調査対象となったヨーロッパ地域の中でイタリアのみが唯一、大多数の宿泊施設提供者がサステナビリティと脱炭素に関連する課題に十分な準備ができていると感じる地域となっています。サステナブルな旅行への需要が高まり、業界が新型コロナウイルスのパンデミックからの心強い回復を見せ、エネルギーコストが利益を圧迫しているなか、事業者にとって、今が自身のサステナビリティへの取り組みを再評価し、投資を強化して新たな取り組みを導入できる分野を特定する理想的なタイミングです。


*本調査は、Statistaによって2023年3月28日から5月15日に電話によるインタビュー形式で実施されました。調査には、ヨーロッパの旅行宿泊施設セクターのエグゼクティブおよびマネージャー計1,040名が参加しました。
 

Woman paying at hotel reception
さらに知見を深めましょう

弊社がまとめたレポートの全文では、パンデミック後のブームがヨーロッパのホテルに与えた影響をひも解き、政府の役割を検討するとともに、大手チェーンと独立系宿泊施設との間の不均衡を明らかにしています。 

レポートの全文をダウンロード

このページを評価してください

まとめ
  • ますます多くのヨーロッパのホテル経営者が、サステナビリティと脱炭素に関連する課題に対応する準備ができていると感じる一方で、さらに前進させる必要性も感じています
  • イタリア、スペイン、および北欧諸国は準備状況に自信を持っている一方で、ギリシャとフランスではそれほど自信がなく、ドイツは進展が停滞していると感じています
  • ホテル経営者の32%は、2023年はエネルギー効率、廃棄物の削減、水の保全を最優先事項としながら、サステナビリティへの投資を増やす計画をしています
  • エネルギーコストの高さは、投資先の決定を促す強力な動機付け要因となっています。また、サステナビリティを重視する旅行者の増加も動機となります
  • ホテル経営者は、地元の体験、よりサステナブルなサービス、Z世代の旅行者の取り込みにチャンスを見出しています