サステイナビリティに関する基準値の設定

この記事は、Sustainable Hospitality Allianceと共同で執筆されました

Header_environment.jpeg

サステイナビリティに取り組み始めるうえでの最初のステップは、基準値を設定することです。基準値とは貴施設の環境への負荷に関する現状を計測したもので、水や電気の使用量に加え、プラスチックの消費量や炭素排出量も考慮されます。

現状を把握しないと目標を立てるのが難しいため、基準値を設定することは重要となります。例えば、光熱費が実際に必要な金額の2倍発生している可能性がありますし、プラスチック消費量の削減に関しては既にベストプラクティスを採用している可能性もあります。また、ゲストに客室内でゴミを減らしてもらう方法について改善の余地があるかもしれません。

海辺のバンガローを運営している場合でも、多国籍ホテルフランチャイズを運営している場合でも、基準値を設定することはよりサステイナブルな運営を行ううえで非常に有益となります。これは、環境および社会的な側面においても経済的な側面においても言えることです。

例えばヒルトングループは2008年に、独自のサステイナビリティ管理プラットフォーム「LightStay」を通して環境への影響の計測・管理を開始しました。そして基準値を設定して変化を測定していった結果、最も効果を出せる部分を特定することができ、2008年から2018年の間に全宿泊施設を通してエネルギー使用量を22%、水使用原単位を22%、炭素排出量原単位を34%削減することに成功しました。計測データから得られた知見により、ヒルトングループは開始からわずか1年で光熱費を約30億円節約することができています。

このセクションでは、基準値を設定するメリットについてご案内します。さらに、環境への影響において2つの重要な指標となる、カーボンフットプリントと水の使用量の計測・管理に役立てられるツールについてお伝えします。

基準値を設定する4つのメリット

  1. サステイナビリティへの取り組みの効果を上げられるよう、焦点を絞ることができます
    貴施設のビジネスが環境または社会に及ぼす影響についてデータを集め始めることで、改善方法がより明確になります。例えばホテル・ブリーズ(Hotel Breeze)が開業した際には、水やエネルギーの消費量を最大80%削減するシャワーシステムなど独自の手段を使用し、世界初のゼロ・エネルギー・ホテルになることへの取り組みを表明しました。
     
  2. コスト削減のチャンスを特定することができます
    基準値を設定することで貴施設の資源の利用傾向について理解を深めることができ、データが蓄積されるにつれ運営コストを節約できる部分を特定することが可能になります。例えば一部のホスピタリティ事業者では、エネルギーの使用傾向を知ることで照明制御や効率的な照明器具を導入する場所を特定することができ、照明にかかるエネルギーコストを最大50%節約することに成功しています。またホテルのアインシュタイン・ザンクト・ガレン(Einstein St. Gallen)は、食品廃棄を計測することで回避可能な食品廃棄の41%を削減し、年間約328万円の節約を実現しました。一方で、プラスチックの消費量を削減することで節約できるコストは、削減するプラスチック製品の種類にもよるため、使用しているプラスチック製品の内訳を知ることが重要となります。
     
  3. サステイナビリティへの取り組みがより具体的になります
    宿をサステイナブルに運営していると口で言うことは簡単ですが、それを証明するのは簡単ではありません。基準値を設定して進捗状況を確認することで、貴施設の取り組みがビジネスおよび周辺の環境に及ぼしている影響について信憑性のあるデータを手に入れることができます。スカンディック・ホテル(Scandic Hotels)やラディソン・ホテル(Radisson Hotels)、NHホテル(NH Hotels)などのホテルグループは、毎年サステイナビリティへの取り組みを実証するレポートを出しています。
     
  4. 貴施設の信頼性がアップし、よりゲストにアピールできます
    Global Business Travel Association(GBTA)によると、北米企業の53%は企業内でサステイナビリティ・プログラムを導入しており、これにより出張に関する旅行提供会社の選択が左右されています。基準値を設定して変化の計測を開始次第、レポートやマーケティング資料を通して貴施設の進歩を共有し、サステイナビリティへの意識が高いユーザーにアピールすることができます。 

基準値の設定方法

最も大きな割合を占める要因からアプローチしましょう
 

Sustainable Hospitality Allianceによると、宿泊施設の環境への負荷を判断するうえで最も重要な3つの要素は、照明、お湯、エアコン / 暖房であることがわかっています。したがって、貴施設の基準値を設定するにあたって、カーボンフットプリントと水の使用量から始めるのが効果的です。以下の無料のオンライン・リソースを活用することで、今すぐ始められます。

  • 炭素排出量の計測
    Hotel Carbon Measurement Initiativeツールを使うことで、合計および稼働中の客室あたりのカーボンフットプリントを計測することができます。それぞれのエネルギー供給方法も考慮されるため、実践可能な改善方法の優先順位をつけるうえでも役立ちます。
     
  • 水の使用量の計測
    Hotel Water Measurement Initiativeツールでは貴施設の水の使用量の合計を計測するために必要なデータが説明されており、稼働中の客室1部屋での1泊あたりの水の使用量(または該当する場合、ミーティングスペースでの1時間あたりの水の使用量など)を算出する方法も確認できます。 
     

他の宿泊施設と比較しましょう

基準値を設定したら、貴施設の環境への負荷を他の施設と比較することで、より広い視点で捉えることができます。そのためには以下のリソースをご活用ください。
 

  • The Cornell Sustainability Benchmark:こちらはHotel Carbon Measurement InitiativeツールおよびHotel Water Measurement Initiativeツールを使用している1万5,000軒以上の宿泊施設から集めたデータから最も大規模なデータセットを作成し、エネルギー使用量と温室効果ガスの排出量、および水の使用量を追跡調査しています。
     
  • The Green Lodging Trends Report:こちらは、数値のデータではなくベストプラクティスを使って、業界にとって有益となるような革新的な手段を評価・紹介しています。

目標を立て始めましょう


最初のデータを集めたら、具体的な目標設定について考え始めましょう。Sustainable Hospitality Allianceは、国連の持続可能な開発目標(SDG)および第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)のパリ協定に沿って、ホテル業界が2030年までに達成することを目的とした科学的根拠に基づくサステイナビリティに関する目標を設定しています。 さらに、水の使用量に関する目標設定や管理、サプライチェーンとの協力についてのガイダンスも提供しています。


他にも、貴施設の水リスクを把握して水の使用に関する適切な目標と対策を設定するのに役立つDestination Water Risk Indexや、企業の気候変動対策といったより幅広いトピックに関するリソースを備えた国連グローバル・コンパクトのScience Based Targets(SBT)イニシアチブなど、有益なリソースを利用できます。

サステイナビリティに関する弊社の他のガイドを確認


 

header_plastic.jpeg

プラスチックの消費量の削減

最近は宿泊施設の運営においてプラスチックの使用量を減らすことが今までにないほど簡単になっており、非常に重要性も高まっています。プラスチックは分解するのに長い年月がかかるうえ、野生動物の害になったり環境破壊にもつながります。こちらのガイドでは、環境保護のためにプラスチックの消費量を減らす方法について確認できます。

詳細を見る

header_water.jpeg

水の消費量の削減

水資源は、昨今さらに希少になってきています。節水は社会にとって喫緊の課題です。旅行業界においても、ゲストにタオルの再利用を求めること以上の取り組みが必要となります。しかし、環境面と経済面のメリットを考えれば、節水には投資する価値が大いにあります。

詳細を見る

Meeting

認定の取得

エコ認定を取得することで、サステイナビリティへの取り組みを表明することができます。ラベルの表示によって貴施設の取り組みの信頼性が増し、環境への意識が高いゲストを呼び込むことにつながります。しかし、優先順位を付けてサステナビリティの目標へと近づいていく実際の取り組みの過程には、それ以上の価値があります。

詳細を見る